世紀末

2021年4月3日土曜日

寝れないときによむ小説

「やいやい、お前のそのお腰のパンツ、寄越せ寄越せとオレが言う」

「いうねェ。ならあんたの汚ねェそのパンツ、俺様のモンにしてやるよォ!」

名乗り響かせいま始まる、ああ、殴り合いつかみ合い。双方流れる打撃斬撃繰り出して、尽き尽きその果て、立つは、ああ、一人の男。


「はん、やっぱりのびのびじゃねーか。だせぇ。それになんかちょっと匂わねーか、このパンツ。うお、くせぇ…。ま、しゃーねェ。パンツに違いはねェんだから我慢しといてやるよ。これで9枚っと」


うつぶせ倒れた男からパンツをはぎ取る、彼の名はカイドウ。

この世紀末で今頭角現す屈強極まる大男。

昨日の強者は今日の敗者。パンツを奪い奪われ、ケツを出し、負けた者に待つは過酷な運命。

パンツ10枚重ねばく、すると行けるあちら側。彼らの間ではそう伝わる。世紀末、それだけが生きる目的。生きる意味。

この世は男も女も天涯孤独。頼れるのはおのの体と重ねばくパンツの暖かさ。


ガサッ。


カイドウが小さな物音に目ざとく気づく。

「そこに誰かいやがるな、こねェならこっちから行かせてもらうぜ。あんたの汚ねェそのパ…」

「あ、あ…、み、みのが…」

名乗りを始めたカイドウに、すがり命乞うは小童。


「っチ、なんでェ子供かよ。」

「あ、あの、おね、おねがい、み、見逃して…」

「わりィな坊主。いつもなら、見逃しているところだが、リーチとあっちゃ運が悪い。覚悟しときな、そのパンツ、このカイドウ様がモノにする」

「あ、ああ…、うっ、うっ…」


絶望浮かぶその顔と、ニタニタ笑う大男。瞬間、かすめる一つの銃弾。

「そのパンツ、全部私が貰うわカイドウ」

「なんだこのアマ。やってやる。おまえの汚ねェそのパンツ、俺様のモンにしてやるよォ!」

小童放り、始まった、男と女の奪い合い。ガンマン打ち出す弾の音、カイドウ捉えることはなく、ついにはカイドウ女の首を締めあげる。

「フン、よわっちィんだよ。」

そうしてカイドウ手を放す。

「げほっ…げほっ…」

大男は冷めた目をして歩き出す。

「ま、待って。なんで…!」

「女のパンツなんざ興味はねェ、第一そんなちっせェパンツ履けねェだろ」


「ほう、ひとつ、ふたつ、みーっつ…。ぜんぶで11のパンツじゃないか。これはこれは運がいい。まずは小童からいただきますか。」

続き続いて現れた。この男。大剣携え躍り出る。


「う、うわぁ…」

小童叫び、しばらく続いた静寂を打ち破る。

カイドウ振り向きざまに口上を。

「これだよこれだよこれだよなァ!ラスト1枚はこれだよなァ!小童お前はすっこんでろ」


小童突き飛ばし始まった。大剣使いとカイドウの、あ、一騎討ち。殴り殴られ食らわされ、斬撃避けてやり返す。パンツに手をかけ手をかけられ、大剣使いの目つぶしがカイドウの視界を一瞬奪う。

そこで登場したるはさっきの小童。大剣使いの顔につかまり必死にもがく、ひっかく、大立ち回り。

大剣使い小童振り払い、高く掲げた大剣を振り下ろそうとするも、ガンマンの銃声がこれまた高く鳴り響く。大剣使い一瞬よろめき体制崩す。

やがてカイドウ目が慣れて、つきだす。右手。渾身の。そうして最後に立つは、ああ、この男。


「へへっ、やったぜィ、これでやーっと10枚目ェ!」

うつぶせ倒れる男から、パンツをはぎ取り重ねばく。その時光るそのパンツ。


「おお、こりゃぁ…っ!」

「な、なに?」

「う、うわぁ…っ!?」


カイドウ、ガンマン、小童の前に現れたるは金の人々。その中、一番輝く人が口開く。

「お前か。パンツを10枚重ねばいたものは」

「はは、そうだ、このカイドウ様だ」

「なるほど、確かに屈強な男だ。しかしてその周りのものは」

「ん?こいつらは関係ねェ。さ、んじゃさっそくこのカイドウ様をあっち側とやらへ連れてってくんなァ!」

「それはならぬ」

「はァ?そいつは話が違うってもんだ。…もしかしてあれか?これ、さっきの、えーっと、確か8枚目のパンツがくせェからか?」

「違う。それから臭いのは9枚目だ」

「じゃあなんだってェんだ」

「あちら側に連れて行くのを他のものに見られてはならぬのだ」

「…ン?なぁんだ、そういうことか。よォーし!ガキ、女、しっし!向こう行け!」

「だめだ。一度みられた以上、その方らのパンツを奪え」

「ハ…?なんでだよ。どういう道理があってそんなことしなくちゃなんねェ」

「見られたその方らにパンツをはかせておくわけにはいかない」

「…。」

「さあ奪うのだ」


カイドウおもむろ振り返り、女と小童に向き直る。

「あ…あ…、ぼ、ぼく…なにも、なにも見てない、だ、だから、おね、おねが…」

「…アンタに敗北した。そして情けをかけられた。…女だからっていういけ好かない理由でね。もうないはずのパンツだ。かまわないよ」


両手を広げるカイドウ。

絶望の表情、あきらめの表情を浮かべる二人。


「あーっ!やっぱダメだァ!」

カイドウが金の人に向き直る。

「やい、一つ聞きてェ。あっち側ってどんななンだ」

「皆で幸せに暮らしている。こことはすべてが違う」

「皆でっていうことはあんたともか?」

「ああ、そうだ。私たちは皆で家族になる」

「カゾク…?まあなんでもいい。全然そそられねェ。あっち側がそんなもんでよかったよ」

「?」

「俺はなァ、誰かに指図されンのが何より嫌なんだよ。女のパンツも奪わねェ、小童のパンツも奪わねェ。おい!小童!女ァ!ちょっと手ェ貸せや。さっきのド熱いやつをさァ、もういっぺん派手にぶちかまそうぜェ!」


カイドウ、ガンマン、小童と対峙するは光り輝く金の人々。

カイドウのパンツが光り、金の人が光り、まじり合う斬撃、射撃、打撃の数々。組んず解れつ激闘の、最後に立つは、ああ、この3人。


「ふぅ…!楽しかったぜィ。んじゃあばよ。お前らも元気でな」

去っていこうとするカイドウ。

「…ま、待ってよ。どこに行くの?だって、もうこの世紀末には…」

「歩いてりゃまたなンかあるだろ。考えたって始まンねェ」

「ぼ、ぼく…、お、おじさんと一緒に、一緒にいたい。カ、カゾクっていうのになりたい」

「…ン?ハハ、いうようになったじゃねェか。おびえてただけのくせに、自ら望んで何かになりたいだと?」

「う…、ご、ごめんなさい」

「いいねェ、おもしろそうじゃねェか!ちょうど退屈してたところだ。いっちょカゾク…?だっけか。やってみるか。あの金ピカに光ってたやつよりゃお前らとの方が楽しそうだ」

「え、私も入ってんの?その話に」

「もちろんじゃねェか。オレと小童、おまえ、これでカゾクだ」

「いや、でも具体的にカゾクってなにすんのさ」

小童が金の人の懐から「かぞくのしおり」とへたくそな字で書かれた本を取り出す。

「えーっとカゾクっていうのは…」


それから、カイドウ達一家をかわきりに世紀末にはカゾクが徐々に増えていった。みな固まることで周りに不必要におびえることなく生存できることに気づいたのだ。こうして世紀末はほんの少し世紀末感がなくなった。


いや、世紀末の総量は変わっていないのだろう。


「あんた!昼間っから寝て!はよ起きて働け!」

「あんたも!早く勉強しなさい!今度あんな点取ってきたら…」


世は世紀末。家庭内は世紀末。しかしそこには怒声と共に賑やかさがあった。

QooQ