ポストを探せ

2021年6月16日水曜日

寝れないときによむ小説

そういやポストを最近みない。

もうかれこれ10年はポストを見てないのではないかと思うが、当然そんなことはない。年賀状出すとき、少なくとも年に1回はポストを間近に見て、あまつさえ投函までしているはずなのだから。


それにポストは厳密には至る所にあるのだろう。

そうでないと郵便配達の方たちがあれだけ忙しそうにバイクで道路を走り回っている説明がつかない。

どこにでもある、いうなれば人が作り出した空気のような存在。人工的空気。呼吸と同じで当たり前すぎてもはや脳がポストを認識していないのだ。

そう考えると郵便ポストは不遇なのだなと同情を覚える。これだけたくさんある(たくさんあるのだろう、見当たらないが)のに覚えてもらえない、これはもう今の現代社会さえ鏡のように映し出しているのではないか。


いや、そんな複雑な話じゃない。ただのポスト。それ以上でもそれ以下でもない。そうしてぼくはただ普通のポストに今手に握りしめているはがきを投函したいのだ。

別に海底にある観光スポット的郵便ポストを探してるわけじゃない。赤くて四角くて普通のでいい。


しかし、いざはがきを出そうとするとポストがない。

ぼくに見えないように世界中の郵便ポストが、唐傘小蔵のようにポストから足だけ2本生やして今も必死に逃げ回っているのではないかと思うくらい見当たらない。


人に聞く。

「駅の前にあったはずですよ」親切に答えてくれる。


しかし駅の前にポストはない。あの親切な御仁が嘘をつくとは思えない、やはりポストは逃げている。


再び人に聞く。

「そこのコンビニの中にポストがあったはずですよ」親切に答えてくれる。


しかしコンビニの中にポストはない。あの親切な女性がウソをつくとは思えない。ここのポストもすでに…。


全てのポストが消えていく。あるいは反旗を翻していく。この世界でこの事態に気づいている人はぼく以外にいるのだろうか。このポスト事変に。


そんなことはどうでもいい。

はやく。はやくポストを見つけないと。すべてのポストが消えてしまわないうちに。ぼくは思わずはがきを握りしめる。


曲がり角を曲がる。…ない。

次こそはと期待を込めてまた曲がり角を曲がる。…ない。

幾度となく繰り返される期待と裏切り。その中でぼくのポストへの期待は次第に薄れていく。…だめだ、このはがきを出さないと。


あったはずのポスト、なかったはずのポスト、すべてのポスト的赤色がきれいさっぱりなくなってしまった。まさにポスト事変。メーデー、メーデー。


……



あ、そうか郵便局前に絶対あるんじゃん。ポスト。なっにがメーデーだよ。

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