ココアを自分で作るなんていつぶりだろう。
いや、待て。ウエイト!…ユー!ウエイト!
そう、そこの君だ。止まらないから日本語が通じないのかと英語が飛び出してしまったではないか。焦らないでほしい。いくらココアという非常に甘美で時に我々の理性を奪う魔性のごときカタカナ3文字が出たからって、気を取り乱さないでほしい。
そう。ココア。
ココアを自分で作ることなんて思い返せば今まであっただろうか。冒頭、さも昔作ったことがあるかのように虚勢を張ったが、実の所思い返してみても自分でココアを作った記憶がない。どれだけ掘っても掘っても土。同じ褐色の粉上のオブジェクトだが、そこにココアらしい粉末はない。
とすれば、ぼくは今まで生きてきて初めてココアを自分で作ったことになる。
フッフー…っ!ふっ…!ひーひーふぅ、ひーひーふぅ、どーどーどー、落ち着け。ウェイト!ミー!ウエイト!
申し訳ない。
ココアを自分で完成させた、という事実、その余りの興奮に事もあろうにわたし自身が自我を失いかけた。
しかしこのように、初めてココアを自分で作ってみて、やはりと言っていいのか、もうたとえようのないほどの達成感とともに、一つだけどうしても気にかかることがある。
それが「ココア20g」だ。
ココアの粉末が20g。それがココアに書かれている1杯分のココアの作り方。
参考までに同じく褐色粉末の飲み物として、土以外では唯一この世に存在しているコーヒーは一杯につきおおよそ2gである。
まあ、確かにココア様とコーヒーとではその存在感、カリスマ性に大きな違いがあるので一概には比較できるものでもない。月とスッポンを比較するのに近い。コーヒーなんていうものはなんならどちらかというと土寄りの粉末だろう。あんなもの。
スーパーで買った粉末コーヒーの中身が土でもわからないとさえ思うし、なんならスーパーで買った粉末コーヒーがなくなったら、その瓶にそこらの野山の土を入れればまた復活するのではという考えは人間なら誰しも一回は思ったことがあるだろう。
そうではあるものの、それでもコーヒーと比較して実に10倍の粉末量を必要とするココアに驚きを禁じ得ない。
いや、まずお湯に20gも粉末溶ける?とココア初体験の時は不安に駆られたものだ。
20gってほぼ粉。
水160gに20gも粉入れるなんて。ほぼ粉。なんかもうスライムみたいにココア味のペースト状になっちゃうんじゃ?と不安で仕方がない。もうジャムじゃんみたいな。
お湯サイドの相当の努力がうかがえる。
塩やコーヒー粉末ならお湯サイドもそんな忖度、しない。土と同じくらいの溶け具合しか粉サイドに許容しないだろう。それがせいぜい2gという事。だろう。コーヒーのパッケージから察するに。つまりはコーヒーは2gしかお湯に認められていないという事。
それ以上の分量をとかそうとした日には「どうぞお引き取りを」だろう。
お湯だってそこまで優しくない。
白湯という言葉のイメージがごとく、やはりどこか京都的なたたずまいがある。
その10倍。
実に10倍もの量をお湯に認めさせるココア。
お湯としても出世街道なのだろう。大学卒業後、コーヒーが溶かされるかココアが溶かされるかでお湯人生が大きく変わる。
玉の輿といってもいいかもしれない。そうとなれば20gも受け入れようものだ。「どうぞわたくしに溶かしてくださいませ」だろう。
…!
そうなのだ、わたしは一つの真実を暴いてしまった。白日の下にさらしてしまった。「どうぞわたくしに溶かしてくださいませ」が若干エロく感じてしまったのは置いておいて、そうかそうだったのか。
ココアの作り方には「①お湯で作る」「②牛乳で作る」とある。
はっはーん。つまりお湯としては生まれながらにして財閥階級の牛乳と同じステータスまで自身を引き上げてくれるココアを特別視するのは当たり前なのだ。コーヒーや土とはまるで話が違う。
ココアに見初められた瞬間、もう白湯は白湯ではないのだから。ニアリーイコール牛乳なのだから。
方や牛乳にまで近づいた白湯と、土に溶かされ泥だんごになるお湯。どこで差が付いたのだろう。生まれの差、環境、才能、努力…そうして蛇口の違い。
これからはココアを作る時に「お湯にココアを溶かす」ではなく「ニアリーイコール牛乳にココアを溶かす」と表記すべきではないか。少なくとも僕はこれから心の中で、そう叫び続けたい。
……
…
やべ、マグカップの底にすげー粉たまってる。やっぱ20gウソじゃね?たぶんこの沈殿ココアだけでもう一杯いける。
御曹司(ココア)が下級市民の女(白湯)と周囲の反対も聞かず結婚するも離別、その後後妻を迎えるわけか。二杯目を牛乳で作った日にはもう…。もはや昼ドラだな。
ああそうそう。Twitterも始めたんでよろしく。フォロワー(戦闘力)の少なさはピカイチだろうと思う。クリボーよりクリボーらしい、スライムよりスライム。逆に誇らしい…くねーか。
0 件のコメント:
コメントを投稿